天注定(邦題:罪の手ざわり)
先日この映画の存在を知った私は、久しぶりに触手が動き見てみる事にしました。
中国で実際に起きた事件を元に、4人の男女の姿を描くオムニバス作品です。これ、中国制作映画なんですが、なんと中国では上映の許可が下りなかった作品なんだそう! こんな恥ずべき姿を世界に晒したくない、認めたくないっていう、臭い物に蓋をするということでかしら!?
まぁそれはさておき、ジャ・ジャングー監督の作品は初めてみましたが、チェン・カイコー監督の作品に影響を受け、映画監督を志したと聞いて合点が行きました。
というのも、これ見終わった後、『何だろう…この感覚。ああ、チェーン・カイコー監督やチャン・イーモウ監督の映画を見終わった後の感覚に似てる。とにかく全体的に暗いし、バッドエンド率も多めだけど、なぜだかまた見たくなる作品だわぁ』って思ったんですよね。
チェン・カイコー監督もチャン・イーモウ監督の作品も私は全て見ているわけでないけれど、何だか勝手にこういう印象がある。っていうか、チェン監督やチャン監督に限らず、中国映画って全体的に暗い雰囲気の作品が多い気がする。でもなんだか中毒性があって、しばらくするとまた見たいなぁって思う作品。特に1990年代の私が見た中国映画はこういう暗い雰囲気の物が特に多かった気がする。
割と新しい中国映画は全然見ていないんだけど、最近の中国映画はどんな感じなんだろうな。
そういえばこの映画の製作会社の中に、オフィス北野の名前があってびっくりしました!
さてさて、以下がっつりネタバレしていますので、これから見ようと思っていらっしゃる方はここで回れ右でお願いします。
(ネタバレと感想)
①山西省の男
山西省の炭鉱夫であるダーハイ(大海)は村の共同財産であるはずの炭鉱の利益を、かつての同級生だった実業家が独占し、また村長や会計係の夫婦も賄賂を受け取り、その不正を見てみぬふりをしているという状況に耐えられず、不正を訴えようと奔走するがうまくいかない。
挙句に実業家側の人間からゴルフクラブで滅多打ちにされてしまう。
とある芝居を目にし、ぷつんと何かが切れてしまったダーハイは、猟銃を手に会計係の夫妻、村長、実業家の元へ向かうのだった。
これは2001年に中国の山西省で起きた、胡文海事件が元になっています。実際の故文海事件では14人が銃殺され、3人に重軽傷を負わせたそうですが、映画の中での犠牲者は…5人かな?
その中の一人の犠牲者が『老高~~(ゴルフさーん)』と馬鹿にしたように呼び掛けた事で撃ち殺されるシーンは衝撃でした💦
あとこのダーハイ役の人、どこかで見た事があると思ったら、『活著~いきる~』の娘ちゃんの旦那さん役だった人だ!←マニアック
これは中国の貧富の差だったり汚職をテーマにしているのかな。結構心臓に悪いシーンが多かったですね。苦笑
②重慶の男
重慶の山村から出稼ぎに出ている三男坊は妻子への送金のために強盗を繰り返している。正月に母の誕生日に合わせて帰省するが、長く家を留守にしている父親を見て息子は泣き、妻の表情も暗い。
妻は送金される大金に疑問を抱いており、ここに住んで慎ましい暮らしをしようとすすめるが、村にもなじめない彼はまた街を出ていく。そして街でお金持ちの夫婦を射殺し、持っていた大金入りのバッグを奪うのだった。
実はこの『天注定』という映画の冒頭は、この二人目の主人公がバイクで故郷に帰っている際に三人組のヤンキーに金を出せと絡まれ、逆にこの3人を撃ち殺すという所から始まるのです。冒頭の男性がまさか2話目の主人公だったとは。
あとこの2話目の中で何か(りんごかトマト)を積んだトラックが倒れていて、その見張りをしているダーハイの傍を2話目の主人公がバイクで通過するシーンがあります。このようにこの映画、4人バラバラのオムニバス形式ですが、こんな風にしれっとすれ違っていたり、何かしらの接点が組み込まれていたりします。
これは2004年から8年間の間に重慶市で起きた周克華事件が元になっています。映画はお金持ち夫婦を殺して、バッグを奪って逃げるところで終わっていますが、実際の周克華は最後は路上で警察官に射殺されています。
③湖北省の女
湖北省の風俗店の受付嬢をしている独身の女性シャオユー(小玉)には、長年不倫関係を続けている男がいる。そんなある日、二人はカフェでこれからの事を話し合うが、彼の態度は相変わらず煮え切らない。シャオユーは男性と別れる事を決める。
そんな矢先、シャオユーの勤める店へ不倫相手の妻が二人の男性を連れて殴り込み、シャオユーは暴力を受ける。これを機に新しい町へ移る事を決めるシャオユー。
その新しい町で同じく風俗店の受付嬢として勤めていたある日、店に二人組の男の客がやってくる。美しいシャオユーを見て自分の相手をしろと詰め寄るが、『私はただの受付だ』と拒むシャオユー。それに対し、一人の男は札束でシャオユーの顔を叩き『この売女!』と激しくなじりだす。耐えられなくなったシャオユーは果物ナイフを手に男を殺害するのだった。
映画の一番最後に、正当防衛で無罪となった小玉が山東省に辿り着き、その街で見た舞台を見て涙するシーンがあります。
『お前は自分が罪を犯したことを認めるか?』そんなセリフに涙を流すシャオユー。そこで映画は終わるのです。
そのセリフが、まるで自分への問いかけのように感じたからなのでしょうか?
これは2009年に湖北省で起こった、鄧玉嬌事件を元に作られています。実際の事件の加害者である鄧玉嬌も正当防衛が認められました。過剰防衛と言う点では有罪になったそうですが、刑事処罰は免除となったようです。
中国ってどんな場合でも殺人犯しちゃうと死刑!と勝手に思っていたんですが、そうじゃないんだな。
しかし不倫相手の女性の所へ本妻が乗り込みヤキを入れるっていうのが、いかにも中国らしくて笑ってしまいました。中国人女性やっぱし気が強いわー🤣
ちなみにこの女優さん、本作品の監督であるジャ・ジャングー監督の奥さんだそうです!
左がジャ監督、真ん中の女性がシャオユーを演じた中国人女優の趙濤さん
④広東省の男
広東省の縫製工場で働くシャオホイ(小輝)はある日、仕事中に同僚に話しかけ、それに答えていた同僚は不注意から誤って手を怪我してしまう。上司に事故は仕事中に彼に話しかけたシャオホイが誘導したものだから、彼のケガがよくなるまでシャオホイの給料を同僚に渡すと言われ、シャオホイは工場を逃げるようにやめてしまう。
その後、ナイトクラブのボーイとして働くようになるが、同じ店で働く風俗嬢のリェンロン(蓮蓉)とお互い惹かれ合っていく。だが、リェンロンには離れて暮らす3歳の娘がいると聞き、その事にショックを受けたシャオホイは店をやめ、再び知人のいる別の工場で働くようになる。そこへシャオホイのせいで怪我をした同僚が仲間を引き連れてシャオホイの元へやってくる。シャオホイを痛めつけようとする同僚、しかし思い直したかのように振り上げた鉄棒を捨て、何も言わず仲間と共に去っていく。その姿を見たシャオホイは寮に戻り、飛び降り自殺をするのだった。
色々な重圧に耐えられなくなり、最終的に死を選んでしまった若者。人生でも何でも嫌な事が重なる事ってありますよね。ああもういやだ、逃げたい、そう思ってしまう。
この主人公はああ、いやだとなると、すぐに新しい場所へ逃げてしまう。そして最終的に死へと逃げてしまった、そういう事なのかな。
こちらは2010年に広東の深圳で起きた富士康工場で起きた若者の飛び降り自殺事件が元になっています。調べてみたらこの富士康では2010年のこの年になんと8名もの若者が飛び降り自殺を試み、うち6名が死亡したという出来事があったのだそうです。
しかもこの富士康の親会社の董事長は台湾では誰もが知る大金持ち、郭台銘!いやー、これにはびっくり。まさかこんな事件があったなんて知らなかったです。
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数年ぶりの中国映画。良かったです。
ちなみに映画のタイトルである『天注定』は、簡単に訳すと“人の人生は天によって定められている”という意味です。邦題の『罪のてざわり』はどうしてこの名前がつけられたのかすごい知りたい。
4人それぞれが違う罪を犯したけど、その罪に対しての思いや捉え方(それぞれの思う手ざわり)が違う、そんなところから??この邦題をつけた人の意をぜひ聞かせていただきたい。気になる💦
今回は中国語字幕で見たけど、日本語字幕のものも一度見てみたい作品でした。
※画像は全てネットからお借りしました。
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